星を見上げて





昼間たらふく降った雪が闇夜にキラキラ光る頃、



カツンカツンと部屋の窓を叩く音がして、は窓辺に寄った。







「ドラコ」







カーテンの向こうに現れたのはドラコ・マルフォイで、


新しい年に監督生になってから一人部屋を得た遊威は


気兼ねなく女子寮のその窓を開ける。


冷たい空気がピリピリと頬を刺した。


ドラコはもう大分使い古されたニンバスで高い階にある遊威の部屋まで浮いていた。




「どうしたの?」



気まぐれな恋人の行動など、いつも突然で、遊威はいつも振り回される。


それがもう常になってしまっていたから、遊威もそれが居心地がいいと感じてしまっているし、


何より、この恋人が実は一層寂しがりやで、


我侭な行動の先に自分を求めてくれることを知っていて嬉しかった。




急に冷え込んだ部屋の空気に遊威は身震いする。


寝巻きにガウンを羽織っただけで、髪もまだ乾いていなかった。




部屋に入ってくるのかと思っていたドラコはまだふわふわと宙に浮いたままで

おもむろにに杖を向けた。




ぶわりと暖かい風が一瞬に吹いて、髪が乾く。

少しくせのあるの長い髪がばらりと落ちた。






「何か着ろ」





こんな夜更けにどこへ連れて行く気だろうか。

遊威が首を傾げると


「今すぐだ!」


とドラコが急かした。






寝巻きの上からセーターを被り


寮紋のついたコートを羽織る。



そしてつい昨日、ドラコから奪ったスリザリンのマフラーを首に巻いた。




窓辺に寄ると



「馬鹿か、それだけじゃ凍えるぞ」とドラコが白い息を吐く。




机においた手袋と耳当ても身につけた。



窓の外にぴたりと止まったドラコが手を伸ばして、


をエスコートするように箒に乗せる。





「ちゃんと掴まれよ」



「うん」





しっかと腰に腕を伸ばすと箒は飛び始めた。


それほどのスピードでもないのに冷たい空気はの頬をピシピシと打つ。


ドラコの広い背中にその凍える頬をすり寄せた。






「どこに行くの?」


「すぐさ」




凍った風が当たらないようドラコは低飛行を続け、やがて湖岸までやってきた。


湖岸には小さな小屋が建っている。



小屋の天井はかっとんだように大きな穴が開いていた。



「こないだゴイルがあそこに落ちたんだ」


そういってドラコは笑い始めたが、きっとゴイルは笑い事ではなかったに違いない。

大きな穴がそれを物語っている。



ドラコは箒を小屋に着け、降りると中を伺った。


湖に面した入口を開け放ち、狭い小屋の奥に入ると「こっちこいよ」とにも声をかける。


奥にどかりと腰を下ろしたドラコは、言われるがまま小屋に入ってきたの手を引き


背を包むように座らせた。


腕を回してきゅっと抱く。







何故だろう



それだけで暖かい心地になれるのは。






包まれたのはドラコの暖かい腕や胸だけじゃなく


この香りや


寒い空気のはずなのに、どこか頬を暖めてくれる空気とか





「あれ」


耳の上に頬を押し当てるようにドラコが囁いた。




低いけど細い声。




割れて砕けてしまう氷のように繊細で

冷たいと感じたドラコの髪とは対照的に


耳に囁かれた息は温かだった。







指された指の先には入口から湖が見える。


そこには空いっぱいに広がった星々を散りばめていた。


見上げなくてもいいほどに


暗い湖に映し出された星々。


はぁっ、とは息を呑む。


「素敵」



星を映して輝いた瞳でドラコを振り見ると


彼はにっと笑って、首を伸ばし口付けた。





















唇と頬と耳と首と


甘噛みするようにドラコのそれで挟まれ、押し当てられる。




「……ん、ね、暖かい魔法でも、かけたの?」


すっかり寒さはなく、むしろ指先にすら温もりを感じては問う。




「少しね」


ドラコは言って、そして何かを感じたいかのように目を瞑る。



はドラコのローブに手をかけた。






























天地が一転し




視界には満天の星空、



ゴイルが落ちてあけた穴、








そしてドラコ。








刻み動き、揺れるドラコの銀糸の髪が


星空で光っているようで



はドラコの髪に手を伸ばす。



普段得ることのできない星は易々とその手に触れ、そして流れた。





あげたその手をドラコの首に回し、

ドラコまで流れて星になってしまわないように、しっかと抱いた。