Tanzkurs

  後編  

クリスマスパーティー当日。

ホグワーツ全体が煌びやかに輝いた。

生徒は着飾ってそわそわと忙しなく動き回り、ダンス会場となったホールへ足を運んだ。





スリザリンでも一際人目を惹いたドラコ・マルフォイ。

シルバーブロンドをいつもとは違う風に流し、黒いパーティーローブがいっそうその色を惹きたてた。

しかし、当のドラコは連れのパンジー・パーキンソンがぽうっとしながら姿を現した時、

そのドレスに密かに眉をよせた。

それでも腕を出しパンジーがしっかりそれにしがみつくとホールに向かって歩き始めた。

「ピンク星人みたいだ。」

後ろからクラッブがゴイルに耳打ちした。

「ドラコの黒には合わないけど、これはこれで目立つんじゃないか?」

ゴイルが囁いた。






ホールに入る前に扉の横に立っているを見かけた。

長い栗色の髪を可憐にたくし上げて数束優雅に落としてある。

純白のパーティドレスが髪に飾った薄桃色の花を際立って見せた。

ドラコはチラ・・・とと目を合わせたがの視線はすぐにパーキンソンに移された。

パンジーがを睨んでいたからだ。

先日ドラコと前で踊った事を気に入ってないのも含め、ドラコが目の敵にしている

パーキンソンも常日頃目の敵にしていた。

はパンジーに興味をもたないらしくすぐにそっぽを向いた。

その仕草にパンジーはまぁと息を呑んだ。

、そのドレス、まさか昔の大会と同じやつじゃないだろうね」

ドラコがふんぞり返って厭味を言ったが。

はいつものように噛み付いてはこず「違うわよ。あなたも記憶力が鈍ったのね。」

とドラコの方を見ずに言うとクラッブとゴイルに目を移し、

「ゴイルにクラッブ、今日はお洒落ね」と微笑んだ。

二人は顔を赤くし「・・・・・あ、ああ」「も似合ってるね」ともごもご返した。

「ありがと」が言いきるのを待たずドラコは「こんなヤツ褒めることはない!!いくぞ!!」

と3人を引き連れていった。

はぼんやり誰かを待っているようで何も言ってはこなかった。

なんだ?アイツ・・・。

いつもと違うに調子が狂う。

・・・一体どこのボンクラと踊るつもりなんだ??









選手代表が踊る間、ポッターのヘタクソなステップを眺めていたドラコだったが、

ある拍子にクラムのパートナーがグレンジャーであることに気がついた。

グレンジャーは

「アラ、マルフォイ。あなたのパートナーはだと思ってたけど・・・。やっぱりスリザリンと踊るのね。」

と皮肉ったが、それに対する皮肉が浮かばなかった。

パンジーがまじまじと彼女を見ていたが、ふと今日初めてパートナーがではないことに違和感を覚えた。







曲が皆が踊れるメヌエットに変わったところでパンジーが踊りましょうとドラコを引っ張っていった。

そのとき扉の方で小さなざわめきが起こった。

腕を引っ張られながら目をやるとざわめきの中心はだった。

背の高い知らない男を連れている。


上級生だろうか、男はスラリとした物腰で少し長めの黒髪を後ろにキリっとしばってある。

詰襟の黒いパーティーローブがドラコのそれによく似ていたが、長身と黒髪のせいだろうか

ドラコとは対照的な印象に見えた。

純白のドレスを着ているとひどく“お似合い”だった。

寡黙でクールな印象を見ただけで周りの女生徒はひそひそとざわめきだっていた。











「・・・いいか、踊るのは一曲だけだ。」

「はい・・・先生・・・。」

イライラとその男、もとい、校長の手によって学生時代にまで肉体を戻されてしまった男

魔法薬学教授セブルス・スネイプはをごく自然に優雅にエスコートしながら

にらみつけた。

「渋い顔をしよって・・・なにか文句があるのかね?ミス・?」

「だって先生・・・、せっかく若くなったんだから最後まで付き合ってくれてもいいじゃないですか」

「生憎と、魔法の効き目は1時間なもんでね」

スネイプはの我儘をさらりと流した。

ホールの中心あたりまでくるとの手を引いた。

「踊るのが目的なのであろう?」

やっぱり人並み以上に踊れるんじゃない。

洗練されたポジションにがつくと曲の変調と共に踊りだした。


二人の踊りにため息を吐く生徒、あの男はだれだ!?と囁きあう生徒、とスネイプに見惚れる生徒が

ホールの周りをを埋め尽くした



「先生ってカッコよかったのね。」

スネイプの胸元でが囁くと「そんな言葉で我輩が2曲も3曲も踊ると思っているのか?」

とお世辞でも受け入れない姿勢だ。

ドラコほど激しくはないが洗練されたリードには安心感すら覚えるほどだった。

あのスネイプ先生に安心だなんて不思議・・・。

ダンスの一曲は瞬く間に終わってしまった。





「せんせぇ〜〜」

「聞かん」

スタスタとホールを出ようとするスネイプをは必死で止めた。

しかし、踊り終わった後にとスネイプに次のダンスの誘いが殺到した為スネイプの扉までの足取りをいっそう早くさせた。

「ねえ、お願いよ」

「五月蝿い」



二人が扉の向こうに出ると待ち構えていたようにドラコが仁王立ちで立っていた。

「やあ、非常に戯れなダンスだったね。」

「なんだ?ミスター・マルフォイ」

スネイプが眉間に皺を寄せた。

「おや、僕の名前を知ってるのかい。僕はあなたを知らないが、あなたのダンスがとてもチンケなものだと言う事は知ってるよ。一体どこで習ったのか教えて欲しいもんだよ。」

ピクリとスネイプの形のいい眉が動いた。

がスネイプの後ろでアチャ〜という顔をした。

「僕のと似たパーティーローブだが僕よりいくつか前のデザインだ。戯れのダンスにはもってこいだろうね」

フンと鼻をならしてスネイプはドラコに近づいて言った。

「ちょうどよかった。ミスター、そこまで言うなら、君が嬢の相手をしたまえ。我輩は見回りがあるのでな」

ドラコの肩をの方に押して立ち去ろうとした。

「は!?なんで僕があなたからそんな事・・・」

ドラコは歯向かったが男の只ならぬオーラに少し怯んだ。

「二度も言わせるな!・・・せいぜい戯れでないダンスとやらを見せていただこうか」

キッとドラコを睨みスネイプは大またで立ち去った。

「・・・・・・な、なんだアイツは・・・!?戯れでないダンスだと!!??よくぞ言ったものだ。見ていろよ・・・!!
 
 講習を見てなかったのか!?」

ボー然と青ざめているに目を戻すと腕を突き出し「来い!!」と言った。

はハッっと我にかえり、眉を寄せ「・・・パーキンソンは・・・?」と問いた。

「あんなヤツ・・・。ヒールでマメが出来ただのどうので一曲も踊りきれない。隅で菓子でも貪ってんじゃないか?」

ホラ、行くぞ!と腕を突き出すドラコの言われるがままはドラコの腕に自分の腕を通した。

「・・・・・・私と踊るの・・・?」

「あの男に目にモノ見せてやる・・・!!そしてグレンジャーにもだ!!」

ドラコはプンスカ怒っている。スネイプとグレンジャーの度肝も抜く為にはと踊る事は何の問題もないようだった。

は足を止めた。

「あんた私の事はなにも考えてないのね」

ドラコはを振り返り、目を細めた。

「そんなのお互い様だろ?ホグワーツ入学前の大会に・・・最後の大会だったが、

 が僕と組みたがらなかったじゃないか、あの若い男のコーチがどうのって言って・・・。」


・・・・・・・・・そんなこともあったような気がする。確かには当時若手のハンサムなダンスコーチに熱をあげていた。

でもそんなことがドラコに知られているなんて思いもしなかった。


「・・・ドラコだって、私が重くなっただのなんだの言ってたじゃない!!しかもそんなこと人に言うなんて失礼よ!!」


ぐっ・・・とドラコが唸った。

・・・・・・・・そんな事も確かにあった。クラッブとゴイルに冗談で話していたことも・・・。

まさかに聞かれていたなんて思わなかった。

「・・・そんなことでお前ずっと機嫌が悪かったのか!!??」

「そんな事とはなによ!!あんただってその事で私の事、幻滅したんでしょ!?」

「それはお前が僕とペアを組まないと言っていたからだ!!馬鹿じゃないのか!?自分の実力がわかっているのか!?」

「馬鹿とはなによ!!馬鹿とは!!実力ですって!?あなたに言える立場!?」

「当然だ!!」

ふんぞり返っていうドラコに開いた口が塞がらなかった。

のようなじゃじゃ馬をリードできるのは僕ぐらいだ!!いままでそんな事にも気付かなかったのか!?」

「でかい口たたくじゃないの・・・」









ホールに二人が入ってきた時周りの生徒がざわめいた。

漆黒のローブにシルバーブロンドと純白ドレス栗色の乙女。

それは有名な犬猿カップル。そして元全英チャンピオンだ。

二人はホールの中央へ突き進む。二人とも無表情だが並んで歩くすがたは妙に威圧感がある。


ちょうど曲は情熱のタンゴ

「口だけじゃない事を証明してよ。」

「楽勝だ」

曲が佳境に入った所で二人は息を吸った。



周りの全生徒が一歩後ずさったのは言うまでも無い。




激しいターンでもいとも簡単にドラコはを受け止める。

もドラコに身を任せ、おもいっきり身体を反らせた。

「重くなった・・・??」

身体をドラコに寄せては尋ねた。

そりゃあ、あれから時は経って二人とも成長した。重くなっているのは当然だ。

「いや、軽いよ。僕も昔のままじゃない」

確かにクィディッチのシーカーとして鍛え上げられたドラコの胸は以前より遥かに逞しかった。

フィニッシュにドラコは離れているの手を引いてはそれに合わせたターンでドラコの胸元に帰ってきた。


昔はこのフィニッシュでお互いの顔が随分近くにあったが、もうドラコの顔はそこになく

見上げる形になってしまう。


ああ、私達、空白の時を過ごしたんだわ。

今更のようには感じ、少し淋しさを覚えた。


パチ・・・パチ・・・とどこからともなく拍手が聞こえ、それは瞬く間にホール中に広がった。

いつしか踊っていたのはドラコとだけで、生徒だけでなく教師も皆二人を拍手で称えた。



「ほほ・・・、今日は面白いものが二つもみれた」

ダンブルドア校長がそう言って曲をワルツに変えた。

ざわめきが収まらないうちに生徒は一組、二組と踊り始めた。


「もう一曲踊るかい?。」

ドラコが手を差し出した。

「いいわよ」

はそう言ってその手に手をおく。

今度は身体に触れ、二人はワルツを踊った。




「・・・・・昔の因縁も解けたところで、僕達はまた友達に戻れるのかい?」

ドラコのを抱く腕に少しだけ力が入ったように感じた。

「ええ」

がドラコを見上げずに答えた。

の睫毛は伏せられて、どこか寂しげだった。

空白の時間が馬鹿のようには感じていた。



ドラコが耳元でそう呼んだのでくすぐったさには顔をあげドラコを見た。

「そのドレス、可愛いよ。」

ドラコは口元を上げ笑った。

「ありがと」

は少し照れて、そしてにっこり笑った。

随分と長い間向けられてなかった笑顔だった。







コツンとドラコの背に誰かとぶつかり見るとハーマイオニーだった。

「あら」

ドラコは顔をしかめたがハーマイオニーがダンス素晴らしかったわと言った(に言っていた)ので

しかめた顔を緩めた。

「タンゴって情熱の赤ってイメージだったけど、二人のスタイルでもステキだったわ。

 マルフォイの黒がの純白のドレスに映えていいわね。結婚式みたいで感動したわ。」

じゃあね、と悪びれもなくハーマイオニーはクラムと踊りながら去っていったが残された二人は

あろうことかダンスが止まってしまい赤面して互いを見た。



慌ててダンスを続けたがドラコはずっとグレンジャーめ・・・と呟いていた。

曲が終わってドラコが「暑くなった、外へ行こう」とを促した。ドラコはまだ顔が赤かった。

「判っただろう。ダンスではと僕のペアがベストだ。・・・まあ僕も今日初めてそれを認識させられたよ。」

こくりとは頷いた。今まで認めたくなかったが正直思いっきり踊れるの相手はドラコしかいない。

「お前が年上好きなのはわかるが、今日のダンスは”踊れるが嫌い・・・”みたいなヤツと踊るのは賢明じゃあない」

はすっかり忘れていたスネイプの事を言われ「あ・・・」と声が出た。

ドラコはそういえば・・・と眉を寄せ、

「アイツは一体誰だ・・・???」

と聞いてきた。

は背中に冷や汗を感じ、これからのドラコの将来を考えて答えるべきかどうかを思案したが、

ドラコが訝しげに顔をよせてくるので

「す・・・スネイプ先生ぇ・・・」ようやく声にできる声で教えた。

ドラコの動きが数秒停止し、それからまだ少し赤かった顔を一瞬にして蒼白にした。









スネイプ教授はイラツキにまかせ、バラ園を捌いて見つけた生徒を減点している所だった。