君の手にチョコを
「、君、僕の女になるか?」
そう言われて彼女は断った。
「駄目よ。私先生が好きだもの。」
ドラコは項垂れていた。
別に本気で言ったわけじゃない。
軽いジョークのつもりだった。が、本気で断られてしまった。
彼女・はスリザリンでこそないが、容姿端麗、明朗活発、頭脳明晰、クィディッチではヒロイン、そして家柄もパーフェクトでドラコの”彼女”には申し分なかった。
そして断られて初めてドラコはへの本気の想いに気付いたのだった。
はスリザリン寮監のスネイプ先生の魔法薬学に大いに尊敬の念を抱いていて、それで、スリザリンで今最もスネイプ先生に近い生徒ドラコ・マルフォイとも交流を得ていた。
スネイプ先生を尊敬しているとは知っていたが、まさか恋までしてるなんて・・・。
ドラコはやり場のないこの想いに拳を握り締めるしかなかった。
「ドラコー!!」
あれからは別に大して様子も変わった所もなく僕に近づいてくる。
たぶん僕からの告白が軽い冗談だというのは判っていたんだろう。
だがもう僕は冗談であったと済まされなくなった。
「ドラコ、最近元気ないけどどうかした?」
「別に・・・」
「ねえねえ、先生って甘いもの食べるかな?」
は今まで友達にも言えなかった秘密をドラコに打ち明け、すっきりしたのか先生の事をよく相談した。
「さぁ・・・甘いものだろ?嫌いなものはなさそうだけど・・・、僕は嫌いだね」
と居られる時間を手放したくないから律儀に答えてしまうドラコ。
「今度の金曜日先生にチョコを作ってあげようと思うんだけど。」
「は?バレンタインデーにチョコを?なぜだ?」
「ん〜・・・ビターにしとこっかな。」
「おい、聞けよ」
ドラコはだんだんとイライラしてきた。
「私の暮らした日本ではお菓子会社の戦略でそういう風習だったの。好きな人に女の人からチョコを贈るっていう・・・」
「お菓子会社の戦略にのせられた風習だと?滑稽な国だな」
フンと鼻で笑ってやると、はもういいわよ!!といって廊下をプリプリ歩いていった。
残されたドラコは「あ・・・」と思いながらも、
(なんで僕が好きな女から僕でもない好きなやつに贈るチョコの話なんか聞かされなきゃいけないんだ!)と頑として自分は悪くないモードに入るのだった。
+++
それから数日たった金曜日。
はあれからドラコの前に姿を現さず、さすがに国を笑ったのは悪かったとドラコは焦りだした。
そのバレンタインとやらはどうなったのかと思い、を探すと、と同寮の子がスネイプ先生のところに行ったと教えてくれた。
・・・今日はあまり先生に会う気分にはなれなかったが、地下牢教室へと足を運んだ。
教室へと向かう途中でスネイプ先生が向こう側から歩いてきたので、
「・・・先生、が行きませんでしたか?」
と尋ねると先生は
「・・・?ああ、ミス・ならさっき我輩のところに菓子を持ってきたが、忙しかったので追い返した。ミスター、それがなにか?」
といつも通り目だけで僕を見下ろし答えた。
「いえ。」
「では失礼する。」先生は大股に廊下を進んでいった。
反対に僕は走り出した。の行きそうな場所をとことん探した。
ふたりで勉強した図書室、昼寝をした教室、中庭・・・、そしてドラコが冗談で告白したあの丘。
そのクィディッチ練習場からさほど離れていない丘にはいた。
夕日が綺麗に見えるその丘はよく二人でピクニックの真似事などをした。
「・・・」
は綺麗にラッピングされた包みを抱えて夕日をみていた。
ドラコの呼びかけには答えなかった。
「隣に座っても?」
今度のドラコの問には頷いたのでドラコは腰を下ろした。
泣いている・・・とドラコは思った。
「せんせー、甘いもの嫌いだって。」
が消え入りそうな声でそういった。
「へぇ・・・」
「せっかくチョコマフィンにしたのにな」
が包みを開けた。香ばしい香りが鼻先をくすぐる。
「よこせよ」
ふいにドラコが包みをとりあげ、マフィンを口にした。
「・・・・・・甘いの嫌いっていってたじゃない」
「マフィンは嫌いじゃない」
「全部食べるの?」
「・・・飽きなければな」
「ふーん。」
は持っていた水筒をドラコに差し出した。
「喉渇くわよ。」
「どうも」
ドラコがもくもくとマフィンを口に運ぶ間は夕日を見ていた。
夕日もすっかり沈む頃、はようやくドラコの方をみてもう帰りましょうと提案した。
「そうだな」とドラコはあと一欠け残っていたマフィンを口に放り込むと立ち上がりズボンについた草を振り払った。
帰り道にドラコの横で歩くはやはりいつもの元気はなかったが、
「ドラコ」といって片手をドラコの顔あたりまであげた。
そしてその手には先ほどマフィンが入ってたのよりひとまわり大きな包みがあった。
ドラコが当惑の眼差しでを見つめるとは
「・・・ドラコにあげようと思ってた分なの。先生にあげるはずだったやつの失敗作なんだけど・・・。
クラッブやゴイル達にあげて」
はドラコの方を向かなかったが、ドラコは包みをうけとって
「あいつらにやるかよ」
とそのまま包みが握られていたの手を握った。
片手にマフィンともう片手にを。
は顔をあげてドラコを見つめた。
その顔はもう沈んだ様子ではなく微笑んでいたのでドラコもホッとした。
「お返しは3倍返しね」
寮への分かれ道にに期待しているわねと言われドラコは表情が固まった。