ドリームキャッチャー

「ドラコ、好きよ」

そう言って恥らう彼女を当たり前のように壁に押し付けてキスをした。



何度も  何度も  


角度を変えて唇を押し付けた。


「ふっ・・・ドラ・・コ・・・」

潤んだ瞳と赤い顔に愛しいという思いが込み上げてくる。





























・・・・・・夢を見た。



目を開くなり、先ほどの夢と現実との記憶の違いを露にされる。

夢で女とキスをした。

恋人さながらに・・・。愛しいとも思ったし、このまま抱きたいとも思った。

・・・・・・それが問題だ・・・・・・




ドラコは頭を抱える。


相手の女がだったから












だ。

しかも夢だし、

何てことは無い。


そう思えたらどれほど楽であっただろうか。















ドラコ・マルフォイ

由緒あるマルフォイ家の御曹司



その僕は今、



の下僕だ。




「よりにもよって・・・」

夢の中で顔を紅潮させていたの姿を思い出して

ドラコは顔を青くした。










事件はさかのぼる事2週間前、

クィディッチの練習中、見つからないスニッチを探す振りをして

ニンバスドリフトなどして乗り回していたら、

ちょうど通りかかったとぶつかった。

は倒れ、持っていた鉢を割ったが、

僕はというと、練習中のことだし、そのまま乗り去ろうとするところを

はむんずと僕のマントを掴んでほうきから引きずり落した。

「なにすんだ!」と叫ぶ僕が一瞬見たのは怒りに満ちたの表情と

彼女のスカートが翻るところで、次の瞬間に僕は彼女の上段廻し蹴りをくらって地に伏せた。






後でわかったことだが、彼女の持っていた鉢はかなり希少価値のあるものだったらしく、

そういえば、彼女は薬草学で随分点数や賞を貰っていた。






「お前、僕が誰か判ってるのか?!」

に杖を向けたとたん

「無礼者!!」

とあっという間に平手でなぎ払われ、今度は肘鉄をおみまいされた。

とどめにストレートで殴られそうなところを「わ!悪かった!!謝るからっ・・・!」

と必死こいて謝罪し、が鼻で笑った隙をついて杖を向けようとしたら

今度は裏拳で殴られた。

僕はそれで鼻血を出したのだ。




とにかく僕は彼女にめたくそにやられ、彼女に1ヶ月の下僕を言い渡された。








これも後で調べて判った事だが、は日本という国のやんごとなき身分の娘で、

その上、カラテ・・・、だとか何とかケンポウの達人だったようだ。







達人だかなんだか知らないが、女にやられたとあっては・・・

しかもこのマルフォイが・・・、げ・・・、下僕だなんて・・・。

これ以上の屈辱があるものかと思っていたが、



一向に下僕として使われる気配もない。

それどころか、僕がにやられたことすら、広まってはいない様子。




そうこうしていて2週間が過ぎた。












「お、おい、・・・」

振り向いたは、いつ裏拳が飛んでくるかビクビクしていた僕をじっと見据えた。

普段からはあまり喋らない。

日本ではやんごとなき身分というのはそういうものらしい。

ブシドーとかいうやつだろうか?

こうやって黙っている姿からは先日の怒りの形相だとか、上段蹴りを喰らわした人物とはとうてい思えない。

・・・などと考えてしまっているうちに彼女はそっぽを向いた。

!」

「何?」

今度は返事をして振り向いた。

見下したような瞳、腹はたつが実際、下僕なんだからしょうがない。・・・!しょうがないってなんだ?!

僕はマルフォイだぞ?!

「一体何の用なの?!」

しびれを切らしたに言った。

「その、こないだの件だが・・・」

ピクリとの右足が動いたのを見て僕は反射的に一歩下がった。

はフンと鼻で笑う。

「今まで、ビクビク私の前から隠れていたくせに、やっとでてきたと思ったらまた逃げるの?

 だからあんたは下僕なのよ」

まるで聞きたい事を見透かしていたみたいには言った。

「げ、下僕って・・・、、君は僕に1ヶ月の下僕扱いを要求したくせに、

 今まで全く僕を利用してないじゃないか!」

彼女の攻撃に備えて身構えたが、当のはハハハと笑い出した。

「な、何がおかしい・・・?」

「ハハハ可笑しいわよ。天下のマルフォイが、まさか本当に私の下僕になるなんて正直思ってなかったわ」

そういって彼女は腹を抱えて笑い出した。

身構えた僕はそのまま真っ赤になった。

「・・・だ、黙れ!僕はだな、不本意ながら、お前にぶつかった事と、鉢を割ったことの詫びを込めてお前が言った事に甘んじただけだ!いうなれば、家のためでもあるのだ!」

「違うわ、マルフォイ、あなたは怖かったのよ。私に倒されてあなたの目は恐怖に震えていたわ。」

、僕にそんな口を聞くのは怖いものしらずだぞ。」

「そっちこそ。なんなら試してみる?」

「え?」

つかつかと拳を握りながら近づいてくる彼女から思わず後ずさる。

しかし数歩で後ろには壁につきあたる。

壁を背にした僕を射程距離においたは目を細めて

「ほら御覧」と言った。

それからもう少し身を進めて至近距離まで近づくと

「判った?マルフォイの坊ちゃん。」と付け足す。

「下僕はもういいわ。逃げ回るあなたを見てて楽しかったわ」

そういって僕から離れ、そのまま立ち去ろうとした。










夢を思い出した。




恥らう彼女を壁に押し付けキスをする。

正直、今の状況からは全く考えられないが、

僕は夢で見てしまった。



俯く彼女の染まった頬や潤んだ目。

まるで現実にあったことのようにリアルに。







「ちょ・・・、待て!」

ゆこうとする彼女の腕をとって引き止めた。

振り向いた彼女は恥らってはいないものの夢さながらに至近距離にいる。

大きい瞳に僕を捕らえている。







「お前、僕が好きだろ?」













「は?」

至近距離にあったの眉が思いっきり顰められた。

だが僕はの唇しか見てなかった。



ガスッ!!



次に僕が感じたのは床に敷かれた絨毯の感触とみぞおちに走る鈍い痛みだった。


















「ド・・・、ドラコ・・・・」

天井の光にクラッブとゴイルの影が入って二人の顔が鮮明に視界に入った。

「大丈夫?」

みぞおちに残る痛みと、頭がガンガンする。

頭の痛みは倒れた時のものだろうか?

「・・・お前らいたか・・・?」

「・・・うん」

「・・・僕は何をした?」

「・・・・・・にキスしようとしてみぞおちを蹴られたんだ。」

答えるゴイルをクラッブが肘で小突いた。

頭がぐらぐらしてまだ寝そべっていたい。

「・・・にキスしようとしてたか?」

「・・・う、うん。そう見えたよ?」

「・・・・・・そうか・・・」

ゴイルとクラッブの間の光を眺めた。

「ドラコ、その・・・はやばいよ。なんかの達人だって教えたじゃないか」

うんうんとクラッブが頷く。

真剣に心配しているんだろう。

「そうだな・・・・・・」

僕はまだ光を見ていた。






でも夢に見たんだ。















僕が好きだと言っていた。